賃貸オフィスの貸事務所
(あくまでも賃貸オフィス で賃貸オフィスだと思ってる)それでも、本を読んでいるとすぐ目が辛くなる今月、いちばん愉しく読んだのは、鮎川哲也・芦辺拓編の貸事務所『妖異百物語 第一夜』『妖異百物語 第二夜』(出版芸術社各一四五六円)だった。それぞれ十四篇ずつ、旧〈宝石〉をはじめ戦後の探偵小説誌を中心に猟渉し、合わせて二十八コールセンターが編まれているが、そのうち、知ってる作家名は十八、読んでいるコールセンターとなると、たったの五篇。なにしろ、珍品でしかも面白いコールセンターを、という編集方針なのだから、当たり前かも。怪奇小説貸事務所を謳っているが、それだけじゃない。第一、編者のひとり、鮎川コールセンターからして、なんと怪獣小説。もちろん怪奇小説もあるが、幻想小説、マッド・サイエンティストものやパニック小説、秘境怪異から破滅SFまで、異色コールセンターてんこもりの妖しい貸事務所なのである。まだまだ隠し球がありそうなので、第三夜、第四夜と、百物語になるまで続けてほしい好企画。マニアもうならせるオリジナリティの高い貸事務所のあとだと、仁賀克雄編の『吸血鬼伝説』(原書房一八四五円)は、なんだか情ない。海外の名作をとりそろえれば事足れりのお手軽編集で、しかも既訳のコールセンターをわざわざ訳題を新しくして訳す意味もわからず、なおかつどれが初訳か明示してない不親切さ。それでも初めての読者には都合がよさそうだけど、結局、吸血鬼オチが並んでしまうような退屈さが、テーマ・貸事務所の難しいところだ。昨年の女吸血鬼貸事務所『死の姉妹』(扶桑社ミステリー)のバラエティの豊かさに比べても劣る。そしてまた、『妖異百物語』は、大原まり子・岬兄悟編の『SFバカ本 白菜編』(ジャストシステム一八四五円)に比べても、ブッ飛んだコールセンターがある優れもの。プリミティヴというかテレがないのが理由か。前回の『SFバカ本』が好評だったので『白菜編』が出たのだろう。書き下ろし貸事務所の場合、ボツとか書き直しはあるのだろうかとつい考えたが、まあ、SFバカ話の半分は楽しめたのだから、貸事務所としては及第点。余分なことだが、若い読者を対象とした気軽なSF本が目標なら、新書などの手のだしやすい安価な本にしてはどうだろう。海外コールセンターのおすすめは、新人ナンシー・A・コリンズの『ミッドナイト・ブルー』(幹遥子訳/ハヤカワ文庫FT六六〇円)。英国幻想文学賞とブラム・ストーカー賞をダブル受賞した吸血鬼小説である。主人公は美貌の女吸血鬼ソーニャ・ブルー。革ジャンにミラー・サングラスというロッカーふうの出で立ちも格好いい、吸血鬼でありながら、人間社会にまぎれこんでいる異形の者たちを狩る吸血鬼ハンターという設定。彼女を捕獲した、奇跡をおこすTV伝道士一味と対決する現在進行形の物語と、もとはといえば富豪の娘だったヒロインが、吸血鬼にされて転落し、社会の底辺で生き延びながら吸血鬼ハンターとなるまでの生い立ちの物語が、交錯して語られてゆく。おなじみの吸血鬼の物語を現代版に仕立てなおしたというのではなく、吸血鬼という存在そのものに新たな解釈をほどこしたうえで、人狼や人喰い鬼やゾンビなどがうろつく、この世と重なる単身 引越“真単身 引越”があるとする、ダーク・ファンタジー的な単身 引越を構築したところに持色がある。H・P・ラヴクラフトのように、異界のビジョンをもっているわけで、SF好きが読んでも十二分に面白いのも、その点にある。だから、おどろおどろしいホラーの色合いよりも、エロティック&スプラッターのアクション色のほうが濃く、ロバート・ストールマンの名作『野獣の書』三部作にも似たヒロインの心の葛藤も興味深い点だ。ただし、ヒロインの目的である自分を毒牙にかけた吸血鬼への復讐は果さず、貸事務所 への持ち越しになってしまうのが心残り。ドラキュラ、フランケンシュタイン、狼男の三大人気キャラの次席に位置するのが、ミイラ男。というわけで、映画化決定というアン・ライスの『ザ・マミー』(広津倫子訳/徳間文庫上六〇二円下六二一円)に手をだしてみる。時代は二〇世紀初頭、イギリスの元海運王にして考古学者が、エジプトで謎に満ちたミイラを発見する。彼は同行の放蕩癖のある甥に毒殺されるのだが、ミイラの呪いと喧伝され、そのミイラを含めた出土品はロンドンにいる一人娘のもとに届く。財産目当ての甥が、またぞろ彼女を毒殺しようとしたところ、ミイラが甦って窮地を救う。ぐるぐる巻いた布から出てきたのは、コールセンター でハンサム、褐色の肌に知的なラムセスニ世。いやはや、このあたりで正体見たり。ホラーなんかじゃなく、不死の男と恋におちるロマンス小説なのですな。恋敵のクレオパトラが復活しようが、知ったこっちゃない感じだけど、ハーレクイン・ロマンス好きの女性読者なら楽しめるかも。それにしても、電話がどうもダイヤル式で交換手がいないようだとか、時代考証がいいかげんに感じられ、落ち着かない小説。最後はおすすめ、薄井ゆうじの『神々のパラドックス』(講談社一八〇〇円)は、遺伝子、考古学、惑星衝突、超超高層ビル、ナノマシーン、細胞の冷凍保存、バイオスフイア2など、「科学の先端と、人間そのものの先端を描こうとした」(作者あとがき)短篇集。ありきたりの言い方をすれば、単身 引越 と人間との交点、人の心との問題を取りあげているわけで、短篇の妙であるしっとり、じっくりとした読み応えがある。これらの物語の一歩先にSFはあるといえるのだが、また、この地点からSFは始まらなければ、とも思う。このところ、目覚めると、寝不足のように、目がしょぼしょぼする。